第2回「笹本恒子写真賞」受賞者、カンボジアの子ども達を撮り続けた足立君江さんに決定

第2回「笹本恒子写真賞」受賞者決定
18年余にわたりカンボジアの子ども達を撮り続けた足立君江さんに決定

 

 

 

受賞理由:

18年余にわたりカンボジアの農村地帯を訪ね、戦乱により荒廃した村々で目を輝かしながら働く子ども達、未来へ希望を託す姿に感動してまとめた一連の写真集や、写真展での優れた表現に対して。

授賞式:12月12日(水)アルカディア市ヶ谷 私学会館
受賞記念写真展:12月20日(木)~26日(水)
アイデムフォトギャラリー【シリウス】

「笹本恒子写真賞」概要

この賞は笹本さんの「時代を捉える鮮鋭な眼と社会に向けてのヒューマニズムな眼差しに支えられた写真群」を顕彰するために設けられ、その精神を引き継ぐ写真家の活動を支援することを目的にしている。

趣旨:

公益社団法人日本写真家協会は、わが国初の女性報道写真家として活躍された笹本恒子(1914年生)名誉会員の多年にわたる業績を記念して、実績ある写真家の活動を支援する「笹本恒子写真賞」を平成28(2016)年に創設。
写真家の写真活動を助成するために「笹本恒子写真賞」を設ける。

対象:

プロ写真家として3年以上の実績をもち、現在活動中の写真家に対し、その活動を支援するために「笹本恒子写真賞」を贈る。
対象とする写真作品は、過去3年間で社会状況を鋭く捉え、出版および写真展等で広く公開し、社会に大きな影響を与え、写真表現の力を公衆に知らしめた写真家に「笹本恒子写真賞」を贈る。

選考方法:

選考委員3名で構成する「笹本恒子写真賞」選考委員会を日本写真家協会内に設ける。選考委員は日本写真家協会会長を委員長に、正会員または会員外の写真家及び有識者から2名を指名し、3名で選考委員会を構成する。
毎年12月に選考委員会を設置し、写真に関わる有識者若干名に推薦用紙を送り、上記条件を満たす写真家を推薦していただき、4月に「笹本恒子写真賞」選考委員会を開き、受賞者1名を選び発表する。

表彰並びに受賞作品展:

表彰は毎年12月初旬の日本写真家協会相互祝賀会で表彰する。
本賞は賞金30万円。(手取り)、記念品
副賞として、写真集の発行または受賞作品展を催す。

足立君江(あだち・きみえ)

足立君江氏

プロフィール
1996 年フォトクラブ「MEW」に参加。伊奈喜久雄氏に師事。
安曇野を中心に撮影しながら、2000 年より18 年間カンボジアを撮影/ 写真雑誌などのグラビアや婦人向け雑誌に原稿を寄稿。毎年「カンボジアローカルNGO スナーダイ・クマエ孤児院の絵画展&写真展」で写真を展示、さまざまな形式でトークを行う。その他 講演活動、カンボジア撮影ツアーなどを実施。日本写真家協会会員、日本写真協会会員。

個展
2003年「安曇野燦燦」 2006年「安曇野春秋」 同年「安曇野燦燦Ⅱ」
2007年「カンボジアの子ども」
2007年「カンボジアの子ども」COMBODIAシェムリアップ市
2008年 4人展「カンボジアの子どもたち」藤井秀樹氏 他
日本カンボジア友好55周年記念展 シェムリアップ市
2010「カンボジアちいさな命たち」-アンコール小児病院待合室-
2011年 同 個展巡回展 安曇野市碌山公園研成ホール
NPO法人フレンズ・ウイズアウト・ア・ボーダーJAPAN共催
安曇野市教育委員会後援
2012年「カンボジア 子どもたち女たち」
2014年「カンボジアの子ども」 松本市「こうさんち」
2015年「シェムリアップ州の子どもたちと」 (デジタルカラー)
2018年「カンボジアの農村」-暮らしの音が吹き抜ける-(デジタルカラー)

写真集
2003年「畦燦燦」 光村印刷
2006年「安曇野歩歩記」 自費出版
2009年「カンボジア働く子どもたち」図書館協会選定図書 連合出版
2012年「子どもたちの肖像」 現代写真研究所出版局

 

笹本恒子(ささもと・つねこ)

笹本恒子氏

笹本恒子氏

1914(大正3)年東京生まれ。

画家を志してアルバイトとして東京日日新聞社(現毎日新聞社)で、紙面のカットを描いていたところ、1940(昭和15)年財団法人写真協会の誘いで報道写真家に転身。

日独伊三国同盟の婦人祝賀会を手始めに、戦時中の様々な国際会議などを撮影。

戦後はフリーとして活動をし、安保闘争から時の人物を数多く撮影。JPS 創立会員。
現在、写真集の出版、執筆。写真展、講演会等で活躍。
受賞歴:1996年東京女性財団賞、2001年第16回ダイヤモンド賞、2011年吉川英治文化賞、日本写真協会功労賞、2014年ベストドレッサー賞特別賞受賞。

2016年写真界のアカデミー賞といわれる「ルーシー・アワード賞」受賞。

 

 

選評・椎名誠

創設されたばかりのこの賞について、選考委員の間で最初にしばらくの論議があった。主題となったのは、簡単にいえば、この賞がどういう性格を持ち、将来どういう方向の写真および写真家を評価していくのか――ということであった。はっきりした強硬な意見も出ないままに、なんとなく論議の中でそれらのテーマを模索して行こうという気配となり、そこから頭を切り替えて今回の候補作の中から、どこにその焦点を当てるのかという論議になって、次々に具体的な論評が交わされ、最終的に本作品、および作者が、さしたる齟齬もなく選考委員一致した受賞作となった。
足立さんの本作品はカンボジアの子どもたちが主人公であるから、ところどころに出てくる大人がそこから語っていることはあまり聞こえてこない。したがって両作品に横溢しているのは、まさしくカンボジアの今現在の子どもたちのありのままの日常であり、そこから語りかけてくる様々な表情である。特に屈託のない子どもたちの笑顔は、この国の悲惨な歴史をついうっかり忘れてしまうような愛らしさで、あっけらかんと明るい生きた表情に満ちていて、なんだかうらやましいほどだ。どの顔、どの場面を見ても、共通した懐かしさを感じるのは、おそらく昔の日本もみんなこんなふうだったのだろうなあと思わせる、郷愁に溢れあどけなさに満ちた群像である。 よく言われるのは、途上国の写真ルポなどで、忘れられた日本を思い起こさせるような――という、まあ単純に共通した見る者を刺激する感情である。
この作品のすばらしいところは、子どもたちのまことにあっけらかんとした群像や笑顔の背景に、やはりあまりにも重いポルポト時代の残虐な圧政の傷跡が、注意して見ていくと、じわじわとそれらの写真から語りかけてくることに気がつくことであり、写真は文章などでなにもそういう感情を匂わせるようなことはしていないけれど、作者のレンズを通したまなざしの集積は、まぎれもなく傷ついて泥だらけになったこの国を、新しい力で立て直していこう、という子どもらの息吹の集大成になっている。
私たちは意識する、しないに関わらず、みんなそれぞれそのことを胸に重く噛みしめ、ひとつひとつのこの国の歴史の健全な復興を担う大勢の子どもたちの熱情を、知らず知らずのうちに感じているのだろう。すばらしい作家とその作品が第二回目の受賞作になったことに安堵している。