2005年第1回「名取洋之助写真賞」受賞者発表

第1回「名取洋之助写真賞」決まる。

社団法人日本写真家協会が30才までの新進写真家の発掘と育成を目的に創設した「名取洋之助写真賞」の選考会が8月29日(月)午後、JCII会議室で、選考委員の金子隆一(写真評論家)、椎名誠(小説家)、鳥越俊太郎(ジャーナリスト)、田沼武能(日本写真家協会会長)の4氏によって行われた。
応募者はプロ写真家から在学中の学生までの64名で、66作品の応募があった。
内訳は、男性39名、女性25名。年齢は19歳から30歳まで。モノクロ36、カラー30作品(デジタルカメラ含む)。
選考は10人ずつ7組に分けて、机上に並べた30枚の組写真を、選考委員は撮影意図を読み、行きつ戻りつしながら慎重に選考していった。続いて2次選考に残った34作品4組を順次選考し、最終選考には6作品が残った。この6作品を前にして、選考委員個々の評価を合議によって「名取賞」と「奨励賞」の2作品を決定した。

「名取洋之助写真賞」には、清水哲朗さんの「路上少年」(カラー、30点)が、同奨励賞には、伊原美代子さんの「海女」(モノクロ、30点)が選ばれた。

・ 授賞式は、平成17年12月14日(水)午後5時から、アルカディア市ヶ谷「富士の間」で催します。
・ 受賞作品展は、富士フォトサロン東京
平成18年1月20日(金)~26日(木)
富士フォトサロン大阪
平成18年2月24日(金)~3月2日(木)

「名取洋之助写真賞」

清水哲朗(しみず てつろう) 1975年横浜生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、竹内敏信事務所(TAフォト&サウンドオフィス)入社し3年間助手を務め、1998年フリーとして独立。2004年(社)日本写真家協会会員。「モンゴルの大自然」に魅了され、現地に滞在し自然風景や遊牧民の生活などを撮影。最近では首都ウランバートルに住む貧困層の実態をドキュメントしている。東京都世田谷区在住。

応募作品「路上少年」は、大草原の国として知られるモンゴルで暮らしが豊かになる一方で、貧富の差が拡大し、都市では失業者が溢れ、家出した少年少女たちが路上やマンホールで生活するストリートチルドレンの実態を捉えたドキュメント。

選評「マンホールの中で生活する少年少女という特異な状況をとらえたもので、名取賞に相応しい現実の発見とテーマ設定が高く評価される。撮影から組み立てまでが一貫しておりインパクトがあった。」(金子) 「ドキュメンタリーとして実態に食い込んだ鋭い写真である。相当ヤバイ世界を自身もマンホールに潜り込み体当たり的な行動力のある写真だ。冒頭からエンディングまで飽きさせない構成は見事である。」(椎名) 「カメラの腕前が凄くうまい。非日常的な現実を映像的にドキュメントしている。」(鳥越) 「これまで日本人が知らなかった世界を捉えた写真として、モンゴルの実態を伝え訴えるものがある。イタチのように路上に顔を出したこどもたちから始まり、暗いマンホールの中で生活する彼らの貧民暮らし、そして対象的に豪華な毛皮を着た婦人を組み込むなど鋭い。終わりがダライ・ラマの写真で終えるあたり、首都ウランバートルの陽のあたらぬ社会の裏側で、どっこい生きている子どもたちのドラマを軽妙にまとめている。」(田沼)

受賞者の言葉「受賞の知らせはモンゴル滞在中に聞きました。その瞬間、隣にいたモンゴル人写真家とガッチリと握手しましたね。この作品を撮るために彼もサポートをしてくれましたので…。草原であればおそらく馬乳酒で乾杯していたと思いますが、街中だったのでワインで乾杯しました。これからもメッセージ性の強い作品を発表していきたいと思います。」

「名取洋之助写真賞」奨励賞

伊原美代子(いはら みよこ) 1981年千葉県で生まれる。日本写真芸術専門学校卒業。現在、写真家樋口健二氏に師事。千葉県睦沢町在住。

応募作品「海女」は、千葉房総の海から伝統の海女が消えようとしている。後継者が育たず現役は70才代のベテランという。海は下水で汚染されあわびの収穫が減少している。そんな実態をたくましい肉体、明るく朗らかな笑顔をした海女たちの生活力を捉えている。

選評「オーソドックスなドキュメンタリーフォトである。女性でなければ撮れない状況もあるが、作者自身の生活圏の中で捉えていることで、実態に迫ることができたように思える」(金子) 「正攻法で捉えているところがよい。水中の写真が少ないのが惜しい。」(椎名) 「モノクロでないと成立しない、実像に迫る勢いがあり、失われようとする伝統を記録しておくことの意味を感じる。」(鳥越) 「うまくまとめてはいるが、もう少し海女の人たちが働く、海中での仕事の厳しさみたいなものが欲しかった。」(田沼)

受賞者の言葉「えっ本当ですか。嬉しい。フリーの写真家をしているのですが、たいした仕事もないので、名取賞に出してみようと以前から撮りつづけていた海女さんの写真を送ったのです。十分に整理されていないので、まさか入るとは思っていなかったので、とっても嬉しいです。」(電話インタビュー)

総評

審査風景 左から金子隆一氏、椎名誠氏、鳥越俊太郎氏、田沼武能会長

「30歳迄の若い人を対象にした賞ということで夢を感じた。題材はさまざまあつたが、30枚で構成することの難しさのためか、途中で息切れする作品が多かった。
対象への迫り方、踏み込みが足りなくて、頭で撮ろうとする観念的な傾向の作品が多く、流行に惑わされている面が見られたのは今日的な傾向なのだろうか。また海外取材で物珍しさだけというものがあり、もっと日本で見出す、足元をしっかり見つめた作品が欲しかった。スケールの大きい、重量感のある作品や若者らしい斬新な表現に挑戦しようとする、冒険的なものが少なかったが、総体的にはレベルの高い作品が揃っていて、将来に期待が持てる。」