2006年第2回「名取洋之助写真賞」受賞者発表

第2回「名取洋之助写真賞」決まる。

社団法人日本写真家協会が新進写真家の発掘と活動を奨励するために、主としてドキュメンタリー分野で活躍している30歳までの写真家を対象とした「名取洋之助写真賞」の第2回選考審査会が、8月28日(月)JCII会議室で、金子隆一(写真評論家)、椎名誠(作家)、田沼武能(日本写真家協会会長)の3氏によって行われました。
応募者はプロ写真家から学生までの24名、25作品。男性16人、女性8人。年齢は20歳から30歳でした。モノクロ16、カラー9作品。(デジタルを含む)。
選考は5作品ずつ5回に分けて行われ、第一次審査で12作品が選ばれました。二次審査で江原一禎「失われゆく記憶」。渡辺寛之「知的障害~ともに歩くために~」。中村恭子「ノシダと笑えば」。綿貫淳弥「陸の孤島~秋山郷~」。王晟陽「遠と近―上海の下町」。高馬和之「In dust real」の6作品が残りました。さらに三次審査で江原一禎・綿貫淳弥・王晟陽の3作品が選出され、最終協議の結果、名取洋之助写真賞は江原一禎「失われゆく記憶」、奨励賞は王晟陽「遠と近―上海の下町」に決定しました。

◎名取洋之助写真賞
江原一禎「失われゆく記憶」(モノクロ)

◎名取洋之助写真賞奨励賞
王 晟陽「遠と近-上海の下町」(モノクロ)

受賞式は、平成18年12月13日(水)午後5時から、アルカディア市ヶ谷「富士の間」で催します。
受賞作品展は、富士フォトサロン東京
平成19年1月19日(金)~25日(木)
富士フォトサロン大阪
平成19年2月16日(金)~22日(木)

第2回「名取洋之助写真賞」

江原一禎(えはら かずよし)1977年滋賀県生まれ。30歳
2002年関西大学社会学部卒業後、カナダのLoyalist College Photojournalismコースを卒業。現在カナダトロントでフリーのフォトジャーナリストとして活動中。なお、同作品は2005年京都国際会議場の国際アルツハイマー学会の期間中に展示された。

作品内容
 祖父由一氏がアルツハイマーの疑いありと診断されてから8年。家族が祖父と共に苦戦を強いられつつもねばり強く病と闘い抜いた喜怒哀楽の日々を写し出した記録。

選評
まず組写真としての無駄が無い。贅肉を削ぎ落とした鋭い写真群で構成しており、テーマを通しての統一性がある。悲しみ、やるせなさ、そしてやさしさがそこかしこに写し込まれており、私にとっては一編の小説を読むような感じがした。(椎名) 一枚一枚の写真が力強く、それが組写真に構成されたとき、一枚では不可能な新しい物語を生み出している。厳しいテーマにたじろぐことなく対峙した眼差しの確かさが感動的だった。(金子) 最後に残った作品はいずれも力のあるドキュメンタリーだったが、老いを見つめたこの作品は、現代日本が抱える社会的にも大きなテーマであり、解決せねばならぬ諸問題を提起している。組写真としてのまとまりや表現力から言っても、名取賞に相応しい作品である。(田沼)

受賞者の言葉
この度、このような素晴らしい賞を頂くことができ心から感謝の気持ちでいっぱいです。最後の最後まで共に力を合わせて病と闘い抜いた家族全員でこの喜びを分かち合いたいと思います。また写真展を通し多くの方々にこれらの写真を見て頂けることに感無量の思いです。写真を見て頂いた方々に何かプラスになるメッセージを持ち帰って頂けることを心より願っています。

第2回「名取洋之助写真賞」奨励賞

王 晟陽(おう せいよう)1982年中国上海市生まれ。25歳
九州産業大学3年生。
若い頃、日本に留学し、現在は上海の大学で写真を教えている父親に子どもの頃から写真の知識や楽しさを教えてもらった。

作品内容
 生まれ育った上海の変貌から、こんなスピーディーに進んでゆく社会はないと思い、また、それが生み出す貧富の差に直面し不安も感じたその上海の中で社会的に弱者の立場と思われる下町にしぼり、そこにくらす人々の生活・周辺の風景も魅力的だった。

選評
中国の写真は被写体としては難しい。特にこの混沌とした上海の街の変化を同国人がどんな風に捉えるかに興味があったが、いろいろな意味でこの写真から汲み取れた気がする。(椎名)
私の中では上海を撮った「遠と近」と綿貫さんの「陸の孤島」いずれも甲乙つけがたく、最後まで「陸の孤島」にこだわりましたが、写真自体の力を感じさせた「遠と近」に軍配をあげた。(金子)

受賞者の言葉
「名取洋之助写真賞」奨励賞を頂いて、とても光栄だと思います。父の影響で私も日本に来て、写真を勉強し始めた。2年間勉強して、だんだん興味が湧いてきて、写真はすごく面白くて、奥が深いと思います。私の故郷-上海、この十何年間の間、猛スピードで発展してきて、新旧交代状態の景色は私にとって、非常に魅力的だと感じて、「遠と近」の形で表現しました。
今回受賞する事は私の励みでありながら、新しい発足点でもあると思っております。これから、写真の知識や技術を一生懸命学んで、もっと良い写真を撮れるように頑張ります。

総評

 応募された作品は25点であるが、内容はいずれも力作のドキュメンタリーでした。綿貫さんや、中村恭子さん、ナヤンタラ カクシャパティさんの作品も印象に残ったが、賞として順当の結果となったと思います。(田沼)。
その他審査委員3氏の意見を総合すると、やはり年齢が30歳までで30点を組むという条件はかなり難しい。内容がダブッたり、後半が息切れしてしまったり、自分なりに感動しながら撮ったのだろうが第三者にその内容が伝わってこない。六ツ切同サイズの出品なのでビジュアル的に表現しにくいのではないか。20歳と30歳とでは経験が違うから、どうしてもその差が作品に現れてくる、等々の意見がありましたが、どんな賞でも年齢差のあるものが同じ土俵で競いあい賞が決定するものです。それだけに賞の重みを実感するのではないかと思います。