飯田裕子写真展「海からの便りII」

2023年02月04日    飯田裕子

飯田裕子写真展「海からの便りII」

海に行くと全てがリセットされる。そんな気がする。なぜなら海は地球始まって以来、私たち人間が出現する以前からそこにあり、今も太古とほぼ変わらない姿でそこにあるからだろう。海は、自然界の中で特別な存在だと思う。ありきたりな言い方では、生命の母なる海。大らかに受け入れ、時に奪い、攪拌する。そして陸上のように人の手を持ってしても大きな造形物を固定することが不可能な場所(今は表面上に見えないマイクロプラスチックが海洋にほぼ含まれ、それすらもある意味では受け入れているが)。自分の一生の時間軸では計り知れない不思議さが、海にはある。だから心惹かれる。

さらに、人がどんなに複雑な国境線を海に引こうとも、海洋覇権に力を行使しようとも、現実の海には境界線はなく、平和的な潮がただただ巡り世界をつなげている。

人類がアフリカを出発し、地球上で最後の移動を試みたのも海だった。そこはポリネシアと呼ばれる太平洋の中央部の島嶼(ハワイ、ニュージーランド、イースター島の三角を結んだ海域内の島々)。ポリネシア人が意思を持って移住し拡散してきた。その事実を考古学的に実証したのが、篠遠喜彦博士(1924~2017/ビショップ博物館、ハワイ)だ。私は篠遠先生の発掘調査の現場に3年間記録として関わらせていただいた。フランスがタヒチでの核実験を行使し続けていた時代は、文化的な誇りを奪回したポリネシア人が静かなる反旗を翻すことにより終焉を迎え、実験は取りやめになったのだった。私が海に関わる撮影を続けてきた中でも特にエポック的な体験であった。

水平線の彼方の島々まで星を頼りに航海してきた彼らには、連帯感や仲間との絆、愛(ALOHA)のスピリッツが今も受け継がれている。今、私は還暦を超え、外房の黒潮洗う勝浦に暮らしている。太平洋の端ではあれ、海洋の街だ。ポリネシアではよく「日本のどこの島から来た?」と聞かれた。彼らにとって日本列島は同胞の島国なのだった。ハワイのホクレア号(復元カヌー)が再び世界を巡り、日本へもまた寄港が予定されている。

思い起こせば大学時代には千葉の海によく通っていた。今回は、自分の原点である千葉の海とポリネシアの海。海と人が奏でる世界を写真で表現してみた。

「海からの便りII」というタイトルは自分の初個展「海からの便り」(1983年 新宿ニコンサロン)開催にあたり、恩師 三木淳先生が授けてくれた大切なタイトルで、本展はその続編である。
写真家生活40年の節目に原点を忘れない意味であえて使うことにした。この40年で自分なりに海を、島を、旅し、取材を重ね、海辺に暮らしてきた。

「海からの便りII」にしたためた私的な物語を、是非多くの方々にご覧いただき、海という環境、海と生きる人々、そして生き物に想いを馳せていただけたら幸いです。

ニコンプラザ東京 THE GALLERY

会 期:2022年10月4日(火)~2022年10月17日(月)日曜休館

時 間:10:30~18:30(最終日は15:00まで)

 

ニコンプラザ大阪 THE GALLERY

会 期:2023年2月9日(木)~2023年2月22日(水)日曜休館

時 間:10:30~18:30(最終日は15:00まで)

https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2022/20221004_tgt.html

 

【大阪会場/THE GALLERY セレクション展 飯田裕子「海からの便り II」トークイベント】

日本の海とポリネシアの海をつなぐ話しをテーマに、飯田裕子氏と藍野裕之氏(編集者、フリーライター)によるトークイベントを開催いたします。
ぜひご参加ください。

会 場:ニコンプラザ大阪ショールーム

日 時:2023年2月11日(土)13:00~14:00

定 員:20名(予約不要、当日12:30より先着順でお席にご案内いたします。)

参加費:無料