2025年11月07日 小林 紀晴

写大ギャラリーではこの度、写大ギャラリー設立50周年を記念して「我(わたし)は誰か/イ厓係麼人/我是啥人/我是誰」と題した彭瑞麟の写真展を開催いたします。タイトルは日本語、客家語、台湾語、國語(北京語)の順で、同一に「私は誰か」を意味しています。これらの言語のあわいを生きた写真家・彭瑞麟のアイデンティティへの問いかけです。
彭瑞麟(ポン・ルイリン,1904-1984)は日本統治時代の台湾で、客家人(17世紀頃から広東省などから移住した歴史をもつ)として生まれました。1928年、本学(旧・東京寫眞專門学校/現・東京工芸大学)に入学、1931年に卒業(6期生)した、日本で写真を学んだ台湾の第一世代にあたります。
今回、ご遺族のご協力のもと、すべての作品を台湾からお借りすることができました。彭瑞麟の日本初個展となります。また本ギャラリーにおいて、卒業生としてもっとも初期に撮影された作品(1929)展示ともなります。台湾写真史、さらに日本写真史を語る上でも重要な写真家であり、作品群です。
彭瑞麟は本学在学中、当時学長であった結城林蔵をはじめ、東京写真研究会で名を馳せた小野隆太郎などの教授陣から最先端の写真技術と表現を熱心に学びました。学友を撮影した肖像写真には、ゴム印画法によるものが多くみられます。
注目すべきは「三色カーボン印画法」によって制作されたカラー作品です。高度な知識と技術を要し、工程は複雑で、作品を完成させるために2ヶ月ほどかかったといわれています。この技法による作品は現在日本ではほとんど確認されておらず、当時の写真技法を紐解くためにも大変貴重なものです。また、ピクトリアリズムなど、その時代の日本写真の潮流、影響が色濃く感じられます。
彭瑞麟の人生は、時代に翻弄され続けました。日本統治時代に生まれた彼は日本国籍を有し、日され、広東省へ通訳として従軍しました。台北の繁華街に「アポロ寫眞館」を設立しますが、太平洋戦争末期、空襲を恐れた当局から立ち退きを求められます。さらに戦後、国民党に冤罪により逮捕され、釈放される際に多くの財産を失いました。
それらの出来事を要因のひとつとして、彭瑞麟は写真から離れます。台湾では二・二八事件、白色テロをきっかけに国民党による戒厳令が1987年まで38年間続きますが、そのこととも深く関係しています。そのため台湾では「幻の写真家」あるいは「沈黙の写真家」とも呼ばれ、長く家族の記憶のなかにだけ留まり続けていました。
彭瑞麟は生涯にわたり、みずからのアイデンティティについて考えざるをえなかったのではないでしょうか。日本語が厳しく制限され、40歳を過ぎてから國語(北京語)を学び始めた彼は、四つの言語のはざまで、何を想い、何を望んだのでしょうか。どの言語によって思考したのでしょうか。
彭瑞麟は晩年まで、セルフポートレイトを撮ることだけはやめませんでした。何故でしょうか。みずからに向けた「我は誰か」という無言の問いかけに思えてなりません。
※タイトルの「我(わたし)は誰か/イ厓係麼人/我是啥人/我是誰」は左から日本語、客家語、台湾語、國語(北京語)の順で、同一の意味をもつ。
企画構成 小林紀晴
彭瑞麟 写真展「我は誰か/亻厓係麼人/我是啥人/我是誰」
展示期間:2025年11月17日(月)~ 2026年1月30日(金)
時 間:10:00 ~ 19:00
休館日:木曜日、日曜日
2025年12月28日(日)〜2026年1月4日(日)、
1月12日(月・祝)、1月16日(金)、1月17日(土)
※ただし 11 月 30 日(日)は開館
入場料:無料
場 所:東京工芸大学 写大ギャラリー
ウェブサイト:https://www.shadai.t-kougei.ac.jp
住 所:〒164-8678 中野区本町 2-4-7 5号館2F
TEL:03-5371-2694(直通)/03-3372-1321(代)
地下鉄丸ノ内線/大江戸線 中野坂上駅下車1番出口・徒歩7分
展示作品:モノクロ・カラー写真作品 約70点
主 催:東京工芸大学芸術学部
協 力:彭瑞麟資料庫、台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター
トークイベント 11月28日(金)18時30分〜20時30分(予定)
【日台合同シンポジウム】
「日台写真史の交錯と継承──彭瑞麟の視座から」
日 時:2025年11月30日(日) 12時30分〜18時30分
場 所:東京工芸大学 中野キャンパス 5号館1階 メインホール
登壇者:彭雅倫、王雅倫、侯鵬暉、飯沢耕太郎、吉田成(順不同、敬称略)参加費:無料
*要予約:Google フォームまたはお電話からご予約ください。
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・写大ギャラリー電話番号:03-5371-2694
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