2026年01月30日 川廷 昌弘

2023年7月から開始した「松韻を聴く旅」。
昔から松は日本の暮らしに欠かせませんでした。風雪に耐える姿が神々しく信仰の対象となり、長寿延命の象徴と讃えられ、心の象徴として親しまれてきました。「松風」「松韻」「松籟」「松濤」。風に名がつく樹種は他にはありません。松は痩せた土地を好む”強い植物”ですが、自然遷移に任せると他の植物に場所を譲る”優しい植物”でもあります。
化石燃焼が普及する高度経済成長期まで、松と日本の暮らしは頃合いの良い関係でした。海辺でも里山でも家の燃料にするため松葉かきをして松林は常に明るく清潔で松には好都合でした。しかしライフスタイルの変化に伴い暮らしから松は離れていき、今は北米から侵入したセンチュウによる壊滅的なマツ材線虫病、いわゆる”マツクイムシ被害”が発生して久しく、昨今の気候変動によって活動域が北上し松が失われた風景は全国各地にますます広がっています。
松がおかれた現状は、単なる環境問題にとどまらず、広く認識してもらう必要がある社会問題でもあります。「松が作りだす景観は日本の文化財」なのです。この旅は、松がつくりだす景観だけでなく松に関わる人にも会っています。松を守る人、松を描く人、松を使う人。その一人ひとりの物語に共通するのは郷土愛でした。
今回は、静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」の皆さんにお声がけをいただき、このプロジェクトで初めての企画展示を行う運びとなりました。三保松原は世界遺産の構成資産に指定された唯一の松原です。写真専門のギャラリーではなく観光施設での展示ですので、インパクトと親しみやすさを考えました。
風景は16:9で撮影した三保松原に限定し左右3.6mのパネルを2点、左右2.1mのパネルを6点とし、人々は全国各地で出会った10人とその言葉をあしらったポスターに仕上げました。三保松原の大きな作品の没入感によって松に対する考え方が変化することと、人々のポートレイトと松に対する言葉によって松に対する共感が広がることを期待しています。
三保松原文化創造センター企画展「松韻を聴く旅〜写真家・川廷昌弘が出会った松原の風景と人々〜」
会 期:2026年2月21日(土)〜5月17日(日)
時 間:9:00〜16:30(年中無休・入館無料)
会 場:静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」
住 所:静岡市清水区三保1338-45
電 話:054-340-2100
ウェブサイト:https://miho-no-matsubara.jp

川廷 昌弘 Masahiro Kawatei
1963年兵庫県芦屋市生まれ。1986年博報堂入社。1995年阪神淡路大震災で被災し10年後に写真集「一年後の桜」出版。1998年テレビ番組「情熱大陸」の立ち上げに関わる。2005年地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」でメディアコンテンツを統括。2015年SDGsアイコン日本版の制作をプロデュース。その後は政府のSDGs関連事業や企業のSDGsコンサルティングを手掛ける。2019年国連本部で開催されたSDGサミットのハイレベルサイドイベントでスピーチ。2020年著書「未来をつくる道具わたしたちのSDGs」出版。2021年東日本大震災から10年の節目に写真集「松韻を聴く」出版。2023年博報堂DYグループ定年退職。2025年震災30年の節目に写真集「芦屋桜、咲く。」出版。キャンピングカーでの全国各地への「松韻を聴く旅」を継続中。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。博士(環境学)。慶應義塾大学特任教授。
