国際交流委員会企画 「表現者たち」vol. 5

 

 

自然は畏敬の念を持って訪れるものを決して手ぶらでは帰さない、という思いで「自然とつながる時」の大切さを感じています。

Nature never lets those who visit with fear and respect go home empty-handed.

 
Mountain lake in the Rocky Mountains, Colorado 2019 ©Kiyomichi Koike

 

Salar de Uyuni, Bolivia, Sudamerica 2019 ©Kiyomichi Koike

 

Salar de Uyuni, Bolivia, Sudamerica 2017 ©Kiyomichi Koike

 

何を見せてくれるか分からないわくわく感、ファインダー越しに感じることで芽生えるもの。撮影後のデータ処理時に沸き上がり写真画像が放つもの、そして見る人の心を揺さぶりながら溢れる感動と共に包み込んで魅了するものが、被写体とつながる時に波動のように身体の芯をも揺さぶってきます。

 

Great Sand Dunes National Park & Preserve, Colorado 2016 ©Kiyomichi Koike

 

視覚的な印象は、時間的な隔たりや物理的距離に関係なく我々の記憶や経験に影響を与えます。自然は美しさだけではなく、時に容赦ない過酷なコンディションをも与えてくれますが、体験する者にとってはその環境に同化する感覚を教えられ、サブジェクトが何であれつながりの時を持つことの大切さを記憶に植えつけられます。新しい発見のチャンスが繰り返しの中にあると私は知ることが出来ました。

 

Great Sand Dunes National Park & Preserve, Colorado 2017 ©Kiyomichi Koike

 

私にとって異国への永住決断は、無造作に思えるほど見事に散りばめられたご縁からで、今思えばあたかも意図されていたかのように結びついて現実化したものでした。人生二度目の飛行機が片道ロサンゼルス行きであり、折しもロス五輪前の時期でした。ロスから初めて握る左ハンドルの車で移動し、興味半分で寄ったメキシコの小さな町ではテキーラにあたり辛い洗礼を受けました。米西部を回り走りコロラド州に入り、ロッキー山脈を越えて州都デンバーに到着した時には大吹雪に出迎えられ、どこを走っているのか分からない状態でした。好奇心や怖いもの知らずの勢いのようなものと共に試行錯誤を繰り返しながらしっかりと根を張ることができました。

文化、言語、環境、風習などの異なる生活に飛び込んだことによって学んだことは多く、特に移民としての生活は私の考え方そのものに大きな影響を与えてきました。戦時中差別を受けた日系移民・日系人の方々との交流は、日系社会の歴史を生の声を通して知ることの出来る大きな出来事でした。米国の差別の実態や多様性がもたらす様々な状況など、日本だけを知っていた私にはなかったからです。

 

Zion National Park, Arizona 2012 ©Kiyomichi Koike

 

高原都市デンバーの乾燥した気候に慣れ、夏の容赦ない日差しはともかくも、雪国に住んだことのない私には冬の積雪や経験したことのない最低気温に腰を抜かすことがありました。環境をしっかりと体感し、自然力の偉大さや恐ろしさを知り、大陸に刻み残され風化プロセスが作り変化し続ける景観とそこに生きる動植物たちの姿を見みることで、時間と変化への好奇心が成長しました。

限られた時間の中で変化対応を強いられた出来事の数々。その中でも、感性が刺激され視覚的に見る写真の奥に確かに存在するものを感じるようになる大きな分岐点が 2001年9月11日米同時多発テロ事件でした。それまで築き上げてきたものが一瞬で消え去り、その後のやり直しさえも不可能に思えて途方に暮れるという経験がありました。何も手につかない期間があった辛さの中から得たものが、幼い頃から親しんできた写真との深い関係と自然に近づく決定的なステップとなりました。私の人生観に変化があったのもこの頃だと思います。

 

Salar de Uyuni, Bolivia, Sudamerica 2017 ©Kiyomichi Koike

 

やりたくてもやれないこと、避けたいが避けられないもの、進もうとしてきた道筋、知らないうちに歩んできた近道や遠回りなど。それまでの心地よいと思われていた自信のように思えていたものが全て消えてなくなったことで見えてくるものがありました。何ものとも比較できない経験をさせてもらっていると実感しながら写真を通して自分の形を作り残そうとする考えが日々強くなる中、被写体との出会いが大いなる刺激となり、写真家活動に生涯をかける意味を見出すことができました。奥行きのある底知れぬ魅力を自分の作風として磨き発酵させる喜びを感じながら、試行錯誤を前向きに受け入れつつ独自の表現としての作品作りと発表を通して一人でも多くの方々に見て頂きたい。

ロケーション情報のみに興味を持つだけでそれ以上を感じようとされない方もおられるかもしれません。しかし作品を通して私の思いや情景が伝えようとするものを感じようとする姿勢で見て下さる方もおられます。私は後者を特に大切にし、作品に入り込むことで想像さえできない反応や解釈をして頂けたらと思っています。写真を深く味わって頂けることがともかく有難い。

 

Colorado Plateau, Utah/Arizona 2014 ©Kiyomichi Koike

 

Colorado Plateau, Utah/Arizona 2014 ©Kiyomichi Koike

 

時に偶然と思える必然的に思えるタイミングがあります。自然力との出会いには劇的なものがあり、時に身が震える思いをすることがありますが、その時その場にいるものだけに見える偉大なる動き、表情をファインダーを覗きシャッターを押す感覚が、感性を支える軸を太くします。

 

Pikes Peak, Colorado 2018 ©Kiyomichi Koike

 

Monument Valley, Utah 2015 ©Kiyomichi Koike

 

写真術は、幼少の時に物置を兼用した暗室で過ごし父を見て教えられたのが始まりでした。ほんのりと光る電球と現像液などの独特な香りがしっかりと脳裏に焼き付いています。モノクロからカラーへ、そしてフイルムからデジタルへと時代の流れ、そして技術の発達の流れに今に至るものがあります。

感性の多様性の素晴らしさを感じ「自然とつながる時」という思いで撮影に臨んでいますが、それはコロラド州南部に存在する大砂丘との出会いから始まり、写真展「大砂丘の声」(2007年)を皮切りに具体的な活動を続けています。そして撮影地の生態系や造形物から風景写真だけではなく生物や生態系の世界の撮影の機会から視野が広がってきました。

 

Cumbres & Toltec Scenic Railroad, Colorado/New Mexico 2020 ©Kiyomichi Koike

 

Cumbres & Toltec Scenic Railroad, New Mexico 2020 ©Kiyomichi Koike

 

歴史を通して感じるもの。言い換えれば感じるものが歴史に通じるものかもしれません。人間が命を継承し種の保存を本能的に続けている中で培われた文化伝統、文明や技術などが好奇心や興味をくすぐります。そして私の住んでいるのは人種の坩堝(るつぼ)といわれる国。今後もこの視点からみた被写体の発表の機会も作っていきたいと考えています。

 

Desfile del Cinco de Mayo, Denver, Colorado 2011 ©Kiyomichi Koike

 

コロナ禍は、私にとっては気づきのチャンスだと思い、次なるプロセスを生み出してくれていると信じています。人間社会での出来事だけではなく、自然界の変化もあるかもしれず、加えて私自身の人生の中での変化もあるかもしれません。

 

Aspen, Colorado 2015 ©Kiyomichi Koike

 

Boulder, Colorado 2011 ©Kiyomichi Koike

 

撮影地では多くの野生動物と遭遇する可能性の高い自然豊かな地を拠点にしていることを活かし、野生動物撮影にも精力的に活動を続け発表の機会を伺っています。魅力の一つは、彼らと目が合った瞬間に走る感覚。幼少の頃から親しみを持っている生物たちとの接点を撮影を通して持ち続けられることは幸せです。

 

White-tailed Deer, Odocoileus virginianus 2020 ©Kiyomichi Koike

 

Canada Goose, Branta Canadensis 2021 ©Kiyomichi Koike

 

相性の合う機材というもの。それは言葉で説明し難いものですが、時には手触りや自分にとって使いやすい機能が導くものがあります。加えて、使わせて頂けるものにはメーカーや担当者の思いや期待があり、時に自身で気づいていない潜在的なものを引き出してくれることもあります。それは被写体においても類似した意味で感じられるもので、相乗的に生みだすものもあることと思います。

 

Coyote, Canis latrans 2019 ©Kiyomichi Koikee

 

活躍する写真家たちの中にも立ち位置があり試行錯誤、努力奮闘があると思います。将来写真家として活動をしたいと夢見るものたちにとっては、どう始めるのがいいかと迷いもあるかもしれません。活動するために何が必要か、目標の違いによって仕事内容が異なったり受け止め方や対応の違いがありますが、活動を続けることで多くの眼に触れ評価されていくと思います。

 

American Bison, Bison bison 2019 ©Kiyomichi Koike

 

時間の大切さというもの。その使い方を考えることが出来るようになったことは、様々な発見につながっており、同時に今まで考え思っていたことの再確認、再認識にもなっています。現実をどう捉えどう行動に移すかという点において、出来ること、今しか出来ないことを出来るかどうかという強い選択課題を常に与えられています。限られた時間の中での「今」。写真を通してその瞬間を捉えていきたい。

 

White-tailed Deer, Odocoileus virginianus 2019 ©Kiyomichi Koike

 

出会いを大切にして写真を撮り続け、自身も成長していけるもの。

 

Red-tailed Hawk, Buteo jamaicensis 2016 ©Kiyomichi Koike

 

自然に対する畏敬の念、そして感謝の思い。同じ時を共有している生き物たちの生と死の瞬間を共有できること。

 

Coyote, Canis latrans / Canada Goose, Branta canadensis 2019 ©Kiyomichi Koike

 

Bald Eagle, Haliaeetus leucocephalus 2021 ©Kiyomichi Koike

 

被写体がみせる表情の美しさに感動があります。そして想像力を刺激するものに大きな魅力があります。

 

Bighorn Sheep, Ovis canadensis 2018 ©Kiyomichi Koike

 

時間の中で与えられている個々の流れ、今という時をどう生きるかを考え選択すること。予期できること、予定して準備できること、更に突然突きつけられる現実にどう対応できるかと考える課題。目に見えるものとそうでないもの、肌で感じられるものとそうでないもの。我々の思いは写真を通して、これらを感じる「時」も届けます。今後も被写体を限定せず、しかしながら自分の感性の位置をぶらさずに精進する必要があると考えています。

 

Salar de Uyuni, Bolivia, Sudamerica 2019 ©Kiyomichi Koike

 

南米との出会い。コロナ禍で延期を強いられるまで2015年からボリビアを主体として5回ほど訪れていますが、間違いなく与えられたタイミングだったと感じるものでした。英語圏での生活でスペイン語にはご縁がなかったので準備の必要性があり、また滞在中には文化、歴史、環境の違いを思い知らされる経験もありました。そして高山都市と言われているデンバーよりも更に標高の高いボリビアでは高山病の強烈な洗礼が。

新しい土地は写真で伝えられるものの幅を広げてくれます。

 

Bogota, Colombia, Sudamerica 2018 ©Kiyomichi Koike

 

La Paz, Bolivia, Sudamerica 2017 ©Kiyomichi Koike

 

出来ることを出来る時に精一杯やっていく。これが一番だと思います。

 


小池 キヨミチ Kiyomichi Koike
 
風景・自然写真家 1959年4月静岡県浜松市生まれ。1983年3月米国永住。米西部コロラド州をベースに南北米大陸で活動。写真撮影を通して「自然とつながる時」を大切にし、撮影地での人や文化との出会いも活かしながらアメリカ大陸での撮影を中心にして活動している。

公益社団法人 日本写真家協会 会員

SSP 一般社団法人 日本自然科学写真協会会員