2026 年第 1 回「JPSノンフィクション写真賞」受賞者発表
公益社団法人日本写真家協会は、新進写真家の発掘と活動を奨励するために、30歳までの写真家を対象とした「JPSノンフィクション写真賞賞」の第1回選考会を、過日、小松由佳(写真家)、鳥原学(写真評論家)、熊切大輔(写真家・JPS 会長)の三氏によって行いました。応募された15歳から30歳までの39 名 40 作品を厳正に選考し、最終協議の結果「JPSノンフィクション写真賞」は李啓睿「北風が、記憶を揺らす」、「JPSノンフィクション写真賞奨励賞」にはフジヤマ ヨシヒサ「ガチョウとニシン」受賞が決まりました。
○最終選考候補者
・岩見 芽依「たった10年の都市の話」
・小泉 志穂「あの日の温もり」
・高橋 侑也「聖俗私観」
・フジヤマ ヨシヒサ「ガチョウとニシン」
・李 啓睿「北風が、記憶を揺らす」
第1回「JPSノンフィクション写真賞」発表
「北風が、記憶を揺らす」(カラー30点)
李啓睿(り・ちいれい)
1997年、中国生まれ。
2023年 九州産業大学大学院芸術研究科修士課程 修了。
現在博士後期課程に在籍。福岡を拠点に写真制作を行っている。
2021年6月福岡アジア美術館 グループ展参加 作品[志賀島の日常] を出展。
2022年9月ソニーイメージングギャラリー銀座 グループ展参加 作品[繁華の果て] を出展。
2023年6月福岡市美術館 グループ展参加 作品[繁華の果て]を出展。
2024 「limelight2024」 Under30部門 次点
2024年 日本写真芸術学会誌〈創作編〉掲載・入選
作品について
「九台」は、祖母の死をきっかけに私の記憶の中で止まっていた場所だった。17年ぶりに訪れると、懐かしさよりも、自分がそこに属していない違和感を覚えた。発展と停滞、高齢化する家族の姿が重なる風景には、地方社会の変化と流れた時間が刻まれていた。私は写真を通して記憶を取り戻すのではなく、失われたまま残るものや、距離を感じながらも存在する家族の姿に向き合おうとした。撮影中に吹く北風は、遠ざかっていた記憶を静かに蘇らせた。
受賞者のことば
このたびは、第1回JPSノンフィクション写真賞の本賞に選んでいただき、大変光栄に思います。本作は、17年ぶりに訪れた父の故郷・九台で、家族と土地の変化、そして自分の記憶との距離を見つめながら撮影したものです。撮影を受け入れてくれた家族に感謝するとともに、今回の受賞を励みに、目の前の風景や人々の中に積み重なる時間を丁寧に見つめ、これからも写真を通して向き合い続けたいと思います。
第1回「JPSノンフィクション写真賞奨励賞」受賞
受賞作品「ガチョウとニシン」(カラー30点)

フジヤマ ヨシヒサ(ふじやま・よしひさ)
2 0 2 0 年 日本写 真芸術 専門学校卒業2020年からphotogroup ammに所属し展示会にて作品を発表
2 0 2 0 年 「m e z z o s o p r a n o 」 u ( p s t a i r s g a l l e r y ) グル ープ展
2 0 2 2 年 「 白 い 縫 い 目 」 ( D E S I G N F E S T A G A L L E R Y ) グループ展
2025年「2M」「ガチョウとニシン」「出力」(コマギャラリー)
作品について
人工花や展示物など、現実を理解しやすい形に置き換えられたものを撮影している。私は、色褪せや歪み、補修の跡など、時間や人の手によって現れる「本物でも偽物でもない」部分に惹かれる。写真も人も、見えている情報だけではすべてを捉えきれない。だからこそ、何を残し、何を削るかを考え、見る人がその外側を想像できる余白をつくりたい。限られた情報から生まれる認識のずれや想像が、現実とは異なる豊かな世界を生み出すと考えている。
受賞者のことば
この度は第1回JPSノンフィクション写真賞奨励賞をいただき、大変光栄に思います。私は、人工花や模型、展示物など、人が世界を分かりやすい形に置き換えたものに惹かれて撮影してきました。目の前にあるものを見ながら、その奥にあるものを想像することが、私にとって写真を撮る面白さの一つです。今回の受賞を励みに、これからも身近な世界を眺めながら、自分が面白いと思うものを写真に残していきたいと思います。
2026年第1回「JPSノンフィクション写真賞」総評

撮影 : 藤井 智弘
熊切 大輔(写真家・公益社団法人日本写真家協会 会長)
ノンフィクション写真賞は新しいコンテストということで幅広いテーマや表現の多様な作品が多く集まったと思う。個性があふれる作品たちに、我々審査員も大いに頭を悩ませる、まさに嬉しい悲鳴があがった審査となった。そんな中、映えあるノンフィクション写真賞には李啓睿さん「北風が、記憶を揺らす」が選ばれた。故郷中国の出身地である小さな町でおきた撮影者の記憶の数々。それをなぞるように淡々と、そしてそのなんとも言えない空気感を捉え、表現した作品は見るものの心にじわりと浸透してきた。たんなる「自分探し」ではない親と子、そして世代や時代を網羅した社会そのものを写し出しているように感じられた。そして奨励賞にはフジヤマヨシヒサさんの作品「ガチョウとニシン」が選ばれた。写真賞作品とは全く異なったアプローチの表現は、このノンフィクション写真賞の幅の広さ故と言ってもよいだろう。抽象的な絵柄は日常にちらばる、こちらが意識しなくても強制的に飛び込んでくるような、情報量の洪水を具現化したように感じられた。見るものの想像力に挑戦するような、刺激的な表現とも言えるだろう。両作のみならず応募されたすべての作品に新たな可能性と未来を感じる事ができたように思う。
小松由佳(写真家)

私たちはどんな時代に生き、どんな世界に身を置いているのだろう。「私である」とはどういうことなのか。そうした問いを一連の写真によって表現するとき、個人の視点の違いが鮮明に現れる。名称やコンセプトを一新し、対象年齢を30歳以下に改めた第一回だが、独創性あふれる作品が集まった。世界を見る目はこんなにも自由なのだと唸らされる。ノンフィクション写真賞に決定した「北風が、記憶を揺らす」は、自分という存在とそこに繋がる土地を、撮影者が内側に入り込みながらも俯瞰している点で印象的だった。風土に人が暮らし、働き、集い、食べる。それらが五感を通して伝わってくるような生々しさがあった。撮影者の視点に安心して身を委ねられるような感覚を得るのは、被写体との関係や独自の距離感だけでなく、作品の根底に流れる、柔らかな光のような眼差しゆえか。奨励賞の「ガチョウとニシン」は斬新な切り口で、普段、自分たちを取り巻くものへの揺るぎない問いかけを感じさせられる。流れ去っていく時間のほんの一瞬を、写真として切り取る。私たちはそこに、確かに時代や人間の手触りを感じ、残していくことができる。自由な目で世界を見つめ、写真の可能性を求める意欲作を、次回も楽しみにしている。
鳥原 学(写真評論家)
40点の瑞々しい作品を見ながら気づいたのは、故郷と呼ぶべき場所に焦点を当てた作品が多いことだ。主に20歳代の応募者たちが、「私は何者か?」という根源的な問いを立てるのは必然的だと思う。ただそのカメラワークの多くに、共通するスタイルへと収束する傾向が見られた。先行する事例を学ぶだけでなく、それを乗り越える意志こそが評価に値する。受賞作の李啓睿「北風が、記憶を揺らす」にはその意志が強く表れていた。中国からの留学生である作者は、父の親族が暮らす吉林省を17年ぶりに訪れ撮影していた。高度成長に取り残された地方が抱える困難さ、その中で生きる人間の切実さに、しっかり接近している。写真家としての身体的反応が強い。そこに私は希望を託そうと思った。次作は、作者がいま暮らす足元、この日本を見つめてほしい。奨励賞のフジヤマヨシヒサ「ガチョウとニシン」はキッチュな色彩と大胆な切り取りで、きわめてポップな印象を与える。かつて「ガーリーフォト」と呼ばれたムーブメントを想起させもする。この作法は情報社会のあり方に対して、強く批評的であろうとする態度である。写真の見かけを裏切るように、自律性を目指す姿勢を評価した。
授賞式
2026年12月9日(水) アルカディア市ヶ谷
受賞作品展
東京展 2027年1月予定
大阪展 2027年2月19日(金)~2月25日(木)
