豆知識 番外編 スターリンクミニを使ってみた

ポータブル電源に接続したスターリンクミニ。AC電源用ケーブルが15mもあるので、ややかさばる

豆知識では、カメラや写真に関するちょっと得する話題を提供してきたが、今回は敢えてカメラでも写真でもない通信の新技術の結晶ともいうべきスターリンクミニを使ったレポートをお届けしたい。

執筆:JPS米田堅持

ノートパソコンサイズのスターリンク

写真家の表現はカメラをはじめとするテクノロジーと密接な関係があるが、撮影を支えるテクノロジーもまた日進月歩である。今回は、携帯電話が使えないような場所で、使える通信手段の一つに人工衛星を介したインターネット環境の構築がある。撮影そのものには必須ではないが、スマートフォンをはじめとする携帯電話が圏外などで使えないエリアでは、撮影中のトラブルがあったときの情報共有や情報収集、あるいは現地からの速やかな写真の送信手段としてスターリンクやインマルサットなどの衛星通信は極めて有効な手段となる。

米国から注文後1週間ほどで到着したスターリンクミニの箱

スターリンクミニは、今年に入って日本でも入手可能になった衛星通信のスターリンクの受信器の最新型である。これまでより小型でノートパソコンと同等の大きさ、重量で持ち運びはしやすくなった。価格は34800円とスマートフォンよりも廉価で、代理店などを通さずスターリンクのサイトから直接注文することが可能で、在庫があれば一週間程度で米国から日本まで運ばれ入手できる。

月額1500円のプランも

ウェブ広告などで見かける料金体系はロームと呼ばれる50GBのプランが月額6500円で、使わない時は1か月単位で休止すれば料金は発生しない。データ容量が無制限であれば11500円となるが、インマルサットなどの衛星通信に比べると割安感は強い。ユーザー個人のメニューページを見ると最近になって10GBで1500円のプランも追加されたので、月に数回程度しか使わないライトユーザーでも維持しやすくなった。使用範囲は日本国内では領土、領海内で、海外での使用も現地の法令などで問題がなければ使用できる。

料金の選択画面。月々1500円のROAM10GBプランも選べる

なお移動せず、使用する場所を固定する場合は、低優先度で4600円のレジデンシャルLITE、レジデンシャル6600円といったデータ容量無制限のプランも用意されている。組み立ては容易で、電源を繋いでセットアップが終わり、衛星との通信が確立すれば使用可能になる。少々手間取っても概ね1時間もあれば何とかなりそうなレベルで、それほど難しくはなかった。これまでのスターリンクのアンテナのように衛星を自動追尾する機能は持たないが、概ね北から北東にかけての空が大きく開けている場所にセットして電源を繋げば数分後には使用できる。専用アプリには、障害物などをチェックする機能もあるが、だいたいこの辺りと目星をつけてセットしても大きな問題はない。

下りの速度は比較的速い。上りは遅く見えるが体感速度は速く感じる

電源はAC100V対応のアダプターが同梱されているので、これを使うのが早道だが、ケーブルが15mもあるので、普段使いだとやや嵩張る気もする。スターリンクのサイトから注文できるアクセサリーもあるが割高かつ種類も少ないが、AliExpressなどの海外通販では、スターリンクのアクセサリーが多種販売されており、USB-Cや車のシガーソケットに繋ぐためのケーブル、あるいはアンテナ用のシリコンカバーや三脚にスターリンクミニを装着するための金具なども注文することができる。

スターリンク公式サイトにあるもミニのアクセサリー。公式サイトより海外通販のサイトのほうが種類も豊富で価格も安い

現状では2~3m程度のUSB-Cケーブルと小型のポータブル電源を組み合わせて使用するのが最も機動性が高く取り回しが良いだろう。航空機移動の場合は、航空機に持ち込めるポータブル電源の容量に制限があるので注意が必要だが、車などでの移動であれば一般的なポータブル電源を使うと長時間の使用でも心配なく気楽に使える。
通信速度はネットで検索すれば使用体験の記事があるので、こちらも参考にしてほしいが、私の手元に来た個体も、下り100MBbps、上りが20~30MBbpsとほぼ同じくらいの通信速度で普通にスマホやパソコンを使うには支障は全くない。むしろ、反応速度が速くてタイムラグが少ないため、数値以上に速く感じる。通話アプリでも話し声が遅れないので、スターリンクの売り文句でもある遅延の少なさを体感できた。

都会では使いづらい

車のダッシュボードに設置したスターリンクミニ。駐車した位置から衛星のある空が見通せれば車内から通信が可能である。

一方で、都会では衛星通信の必要性が希薄な上に空が空いている場所を探すのが難しいので、テスト運用ができる場所を見つけるのには苦労した。広場や駅前ロータリーなど空が大きく空いていた繋がりやすいケースもあるが、建物が多い場所では使える場所は少ない。特に住宅の多い場所では南向きの住戸も多く、北側が建物で遮られやすいのでタワーマンションが林立する地域では、災害対応で導入してもアンテナを設置できる場所は少ない。変わったところとして高速のサービスエリアなどでは、駐車場の位置によっては車内からでも通信が可能だった。海外通販サイトでは車のリアウインドウに吸盤で装着するアクセサリーがあるくらいなので、うまくいけば車外にアンテナを設置しなくても使用できる。ただし、日本では移動しながらの通信は法的に認められていないので停車時のみしか使用はできない。

ソフトウェアアップデートをダウンロード中のアプリ画面

ポータブル電源から繋いで、いくつか通信してみると電力使用は多いときで40Wほど、少ないときで10Wほどなのでスマートフォンなどよりは電気を食う感じだ。2時間以上使うのであれば、電源はしっかりしたものを用意したほうが良さそうである。スターリンクミニには融雪機能もあるので、雪が降り積もるような場所でなければ、アプリから設定を解除することで多少の節電にはなる。時々、ソフトウェアのアップデートを促すメッセージが出ることがある。アップデートをすると、スターリンクミニ本体の再起動が必要なので通信が途切れ、接続をし直す必要がある。このため、途切れたらまずい場合は、ソフトウェアのアップデートは後回しにするのが無難である。また、空が大きく開いておらす、接続までに時間がかかるような場所でも、再接続できない可能性があるので、ソフトウェアアップデートは後回しにしたほうが無難だろう。

携帯圏内でも活用できる可能性とは

航空機内への持ち込み可能な小型ポータブル電源に接続して通信中のスターリンクミニ

実際に使用してみると後発の楽天モバイルでも、東京近郊では圏外で空が開けている場所を見つけるのは困難なので、衛星通信がないと困るシチュエーションは少ない。一方で、一時的に人が多く集まる場所では携帯電話の電波が輻輳して繋がりにくくなるケースもあり、そのような場合に地方などで空が開けているといった場所ではスターリンクのような衛星通信は威力を発揮する。筆者自身も、昨年11月に宮城県石巻市で行われた陸上自衛隊を中心とした大規模災害対応訓練の記録撮影に従事したときに、速度はある程度出ても、写真や動画は回線が不安定で多くのデータを送ることができずに仙台市内に1時間程かけて戻って送ったことが数回あった。この時、スターリンクの回線は比較的安定していて、中継動画のデータはしっかり送られていたことが、筆者がスターリンクミニを買う一つの動機ともなった。

衛星通信も手が届く時代に

一般的な撮影で衛星通信を必要とする場面は少ないだろう。筆者は海上保安庁の船や航空機、潜水士ななどを主な被写体としているが、最近では陸上が見えていれば通信できる海域も多くなってきた。一方で、災害などの様子を取材に行く場合、携帯電話の基地局なども被災しているケースがあり、そこから写真を送らないまでも通信が可能かどうかは安心感がまるで違う。不測の事態への対応や外部への救援要請も視野に入れると通信が全くできない時間は極力短くしたいのが本音だ。
また、動物をはじめとするネイチャー系の撮影をする写真家にとっても即時発信に加え、万が一の際の連絡手段の確保や情報収集にスターリンクのような衛星通信は活用できるだろう。もう少し廉価になれば複数のスターリンクを活用することで、携帯基地局のない場所からリアルタイムに撮影したデータを送るだけでなく、低遅延性を生かしてリモート撮影などをすることも一般的になるかもしれない。
スターリンクとスマートフォンが直接つながるサービスも一部で始まっているが、まだ画像のような要領の大きいデータを手軽に処理できるレベルではない。そのような意味では、スターリンクミニは、手が届く範囲の衛星通信として写真家が検討しても良い時期に入っているかもしれない。